2024年度グッドデザイン賞を受賞!視覚障害者就労支援施設「ひかりの森」

ひかりの森外観写真

2022年4月に竣工した視覚障害者就労支援施設「ひかりの森」が、2024年度グッドデザイン賞を受賞しました。

グッドデザイン賞は、1957年に創設された歴史ある賞です。今年は応募総数 5,773 件の応募があり、そのうち 1,579 件が受賞しました。

私たちが応募した「ひかりの森」は、日本では数少ない、中途失明した方達が職業訓練を行う場所です。

一般社団法人ケアリングデザインと⻄武西武池袋百貨店が共催した「くらしのデザイン展」に、施設代表の方が見えて、施設の設計を引き受けてほしいと打診されました。2020 年の秋のことでした。

2021 年 1 月に正式な設計依頼を受けて、 2 月から急ピッチで設計を始めました。

一級建築士の直町常容子さんを始め、環境デザインの正木 覚さん、視覚障害に造詣の深いデザイナー桑波田 謙さん、音の専門家サウンドクリエーター武者 圭さん、ケアリングデザイン代表理事であるインテリアデザインの小野由記子さんで、設計チームを作りました。

工期は、設計と施工で約一年と言う超特急の現場でした。運悪くウッドショック(木材の需給が逼迫して、価格高騰、納期遅延などが発生)の真最中。資材の調達が難しい時期でした。予算は限られているため、はたして受けてくれる施工業者がいるか不安でした。地元の業者さんに頼みたい、補助金が出るので県産材を使ってほしいと言うクライアントからの要望もありました。ネットで調べ、国産材を使って施行する千葉工務店さんを探し当て、何とか予算内で契約することができました。竣工後、木の香りと手触りが1つの手がかりになる建物になったのは、国産材のおかげでした。視覚障害の方々と意見交換し、ショールームに行って、設備機器や床材、照明器具などの現物を触っていただいたりしながら、なんとか 2022年3月に竣工することができました。クライアントからは「軽井沢のカフェにいるような気がする」とのお言葉をいただきました。

建物は切り妻の平凡な形をしていて、特に建築的な特徴がある建物ではありませんでしたが、専門家のコラボレーションや当事者と作っていく過程やコンセプトなどのソフト面を評価していただけたようです。

室内の壁には、青いガイドラインが高さ80㎝に張り巡らされており、視覚障がい者の方でも、ひとりで歩行できるようになっている。光、色、音、香り、触覚を使った誘導をデザインすることで、白杖なしで一人で移動できる。

木の香りに包まれる室内。

審査委員の評価では、「光、色、音、香り、触覚など視覚に頼らない情報伝達方法をポジティブに据えることで、利用者にとって何がデザインになりえるかという本質的な問いから思考するチャレンジ」という嬉しいコメントを頂戴しました。詳細は、グッドデザインアワードの受賞ページをご覧ください。

階段歩行時の音が変化する階段の踊り場。

室内の壁には、青いガイドラインが高さ80㎝に張り巡らされており、視覚障がい者の方でも、ひとりで歩行できるようになっている。光、色、音、香り、触覚を使った誘導をデザインすることで、白杖なしで一人で移動できる。

超高齢社会では、視覚になんらかの不具合を感じる人が多くなっています。眼科に行ったことのある方ならその混みように驚かれたことでしょう。今回提案した「見えにくい・見えない」をサポートする色の使い方、手触り、 音、匂いなどのさまざまな工夫は、高齢者が自宅で暮らしていく上でも、安全と安心を高めることになると思います。

利用者を誘導するための、壁や床の色のコントラスト、階段前の凹凸など。

 

グッドデザインが増えてきた福祉分野

11月5日にグッドデザイン賞の授賞式がありました。1 作品につき3名が招待されたのですから、ざっと計算しても 4,500 人。 有明にあるコンサート会場のような東京ガーデンシアターの受付は⻑蛇の列!

1,579 件の受賞作品の中からベスト 100 が選ばれ、そのうちの 20 件が金賞で大賞の候補となりました。

2024年度のグッドデザイン大賞を勝ち取ったのは、遊具メーカー株式会社ジャクエツのデザイナーさんグループ「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」でした。

重度の心身障がいがある子供さんが、障害のない子どもたちと同じ遊具で遊ぶことができる「インクルーシブ」を形にした素晴らしいもので、プレゼンテーションを見て感激しました。

みんなの投票で選ばれた作品も、0歳から100歳が同じ建物を共有する多世代共生の複合型福祉施設「深川えんみち」でした。

昨年2023年度のグッドデザイン大賞も、福祉施設「老人デイサービスセンター 52間の縁側」でした。

二つとも地域に開かれた美しい施設です。

「あー、やっと福祉分野にデザインが入ってきた!」と嬉しく思った一日でした。

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