「ものを作る人間にとって旅は義務である」
2019年の夏に旅をして以来、私が大切にしている言葉「ものを作る人間にとって旅は義務である」(読み人知らず)を果たすことができませんでした。
すでに81歳になってしまいましたが、この4月に傘寿(80歳)記念旅行に出かけました。
一人でも暮らし続けることができる住まい—車いすのKさん宅
今回の旅は、高知県の安芸から始めました。
安芸市で設計したお宅の施主Kさんと私は、同じ誕生日です。コロナ以前はよく一緒に誕生会をしました。
89歳になるKさんと一緒に誕生日を祝う機会は、もうあと何回もないかもしれないと思いながら、「Kさんの家を見たい」と言う後輩と一緒に訪れました。
Kさんは、昨年秋奥様を亡くされました。Kさんは、奥様が先に亡くなったら自分は施設に入ると決めていたと言います。
ところが義理のお姉さん家族やヘルパーさんが、「自分たちが支えるから、このままこの家に住み続けなさい」と言ってくれたというのです。
Kさんは16歳のときに怪我をして以来、車いすを使用しています。この家は、車いすのKさんが一人でも暮らせるように設計してあります。
地域に支えられながら住み続けるKさんは、「この家があったから、一人でもくらし続けることができる」と言ってくださいました。
日本選手団の一員だったKさんとは、1964年のパラリンピックで知り合いました。そして18年後、ご自宅の設計を依頼されました。
以来、安芸の家までに新築3回、リフォーム2回、合計5回もKさんの家の設計にたずさわることになりました。42年にわたるお付き合いは、親戚以上です。
1泊だけお宅に泊めていただき、翌朝9時に車で安芸を出発。
高知駅から瀬戸大橋を通って岡山へ。そこから新幹線で福岡、熊本に出て本数の少ないバスで阿蘇の家へ戻りました。
家に着いたのは夜の9時でした。さっさと動けない私は、余裕を持って交通機関を選んだので、なんと12時間かかりました!
幸福で健康な人生を送る鍵は「人とのつながり」—京都の旅
阿蘇から伊丹空港に飛び、今度は京都へ。
京都では、40年以上前に我が家にホームステイをしたベトナム出身のRちゃんのゲストハウスに2泊させていただきました。
翌日取り壊すことになっていたという廃屋同然だった町屋をリノベーションしたお宅でした。
建築が好きなRちゃんは、古い建具や自然素材をうまく使って、大工さんと一緒にこのゲストハウスを作り上げました。
建築士顔負けのリノベーションです。
ご自分でデザインした庭を見ながら寛ぐ時間は、医師として忙しい毎日を送るRちゃんご夫妻にとって、至福の刻(とき)なのだと思います。
京都2日目の夜は、やはり40年前に知り合った織りと染色のアーティスト2人が、たくさんのご馳走を持ってゲストハウスへ遊びに来てくれました。
思い返せばあっという間の40年でしたが、こうしてお付き合いが続いていることを嬉しく思ったことでした。
ハーバード大学の85年にわたる追跡調査の研究結果によると、幸福で健康な人生を送る鍵は「人とのつながり」だとか。
まさにそれを実感する日々でした。