居心地のいい緩さ『団地のふたり』

保育園からの“ズッ友”

昭和30年代半ば、高度成長期に建った築60年の団地。

当時は最先端だった団地も、子どもが巣立ち、第一世代の住人とともに、建物も一緒に年齢を重ねていきます。

老朽化のために建て替えが話題に上がるようになった団地の実家に住んでいるのが、主人公の奈津子と、友人のノエチ。

2人は、団地内にあった保育園に通っていた頃からの幼なじみ。

イラストレーターの奈津子は、母が親戚の介護里帰り中で、3LDKの団地に一人暮らし。

非常勤講師のノエチは、老親と一緒に実家に暮らしているせいか、よく奈津子の家に入り浸り。

半世紀近くの付き合いの“ズッ友”。

どれだけ会ってない空白時間があっても、顔を合わせるといつでも元の関係になれるもの。

そんな団地のおだやかな日常が、ゆるやかに描かれているのが、小説『団地のふたり』です。

 

「ちゃん」づけで呼ばれる心地よさ

これといった大きな出来事は起こらないけれど、昭和な団地コミュニティには、懐かしくあたたかな空気が流れています。

自分のものやご近所さんから託された不要品を、ネットオークションやフリマで販売する奈津子。

子どもの頃から知っているご近所のおばさんに、壊れた網戸修理の相談を受けることもあります。

昔ながらのご近所付き合いがある団地暮らし。

「五十なんて、ここじゃまだまだまだ小娘よ」

同じ棟に住むおばさんから、50歳でも「なっちゃん」「野枝ちゃん」と呼ばれる2人。

大人になったら、「ちゃん」づけで呼ばれる機会が少なくなります。

でも、子どもの頃から知っている年配の人たちから見たら、大人になってもいくつになっても「○○ちゃん」。

それもまた、居心地のよい空気感を醸成しているのです。

 

ITスキルが団地コミュニティの助っ人

『団地のふたり』は、昭和のノスタルジーな世界だけではありません。

不要品をフリマで売り買い、網戸の直し方をネット検索するなど、団地の人々は奈津子のITスキル(といってもごく普通にネットが使えるという程度ですが)を頼りにしています。

奈津子のITスキルや(身軽に動けるという)若さが、シニアの多い団地コミュニティの助っ人なのです。

ITと人材は、シニアライフを救う!のです。

 

モノを生かす心もふれあい

奈津子は、自分の不要品や、ご近所さんから託された不要品を、ネットオークションやフリマに出品。

丁寧に梱包して、次の人の手にモノをつなぎます。

もちろんご近所さんの出品で得たお金は、手数料を差し引いて、半分こ。

意外にも古い楽譜が高値で売れたり、廃業したお店の人に託されたピンクの公衆電話まで売ったり。

誰かのためにも役立っている。

そんな小商いが、自分の心を元気にしてくれる効果もあります。

 

緩いシスターフッド小説『団地のふたり』

前回紹介したコミックエッセイ『マダムたちのルームシェア』もそうでしたが、『団地のふたり』は新しいかたちのシスターフッド小説と言えます。

主人公たちの年齢は、奇しくもGood Over 50’s。

いままでの固定概念にとらわれず、それぞれが幸せと感じるいろいろな暮らし方や生き方があるんだなと感じさせる作品でした。

著者インタビューもぜひお読みください。

友だちとだらだらできる空間があれば、ひとまず幸せ──『団地のふたり』藤野千夜インタビュー

(U-NEXTオリジナル書籍)

 

『団地のふたり』

著者:藤野 千夜

出版社:U-NEXT

https://publishing.unext.co.jp/book/title/3v3wlifFZyYzPpQ2npUU6V

ISBN:978-4-910207-32-2

この記事をSNSでシェアする

関連記事

大人の迷子たち

東急線沿線でおなじみのフリーペーパー「SALUS」。その中で連載のエッセイ「大人の迷子たち」は、仕事...