フィンランド北部の小さな村にある食堂。女主人シルカが営む小さな食堂は、ソーセージソースとマッシュポテト、切った野菜をビュッフェスタイルで出すだけ。地元の馴染みの客がなんとなく集う、ごくありふれた食堂です。
そんな食堂にやってきた、子ども連れの中国人チェン。上海で料理人だったチェンは、恩人を探すためにこの田舎村へやってきました。ひょんなことからこの食堂で、地元の食材を使った美味しい中国料理を提供し始めます。
湖で釣った淡水魚パーチのスープ、トナカイの肉の香草焼き、トナカイの骨付き肉を使ったパクテー(肉骨茶)など、地元の食材と野菜をたっぷり使った中国料理は、いままでシンプルな料理しか食べてこなかった女主人と客たちの心と舌を掴みます。
最初は食べ慣れたものしか食べないと拒否していた頑固な常連の老人たちも、次第にチェンの中国料理の味に魅了されます。美味しいものは、世界共通言語。すっかりチェンの料理のファンになった老人は、「施設のメシはまずい」からと、自分の住む介護施設の仲間を大勢引き連れてランチへやってくるようになります。
教師に連れてこられた小学校の生徒たちは、厨房で中国料理の医食同源の考え方をチェンから教わります。牛乳アレルギーやグルテンフリー、ベジタリアン、食の制限を持つ子ども達にも対応できるのが、中国料理のよいところ。チェンは、米麺のスープヌードルを小学生たちのランチに振る舞います。
一方チェンや息子も、女主人や近所の子ども、常連の老人に教わって、湖での釣り、森の中でのダンス、フィンランドの本格サウナ、船上BBQなどのフィンランド生活を楽しみます。
チェンや老人たちが楽しむフィンランドのサウナは、以前北欧視察で体験した古式スモークサウナや、映画『サウナのあるところ』を思い出します。映画のロケ地はラップランド。息を呑むような自然の美しさも見どころのひとつです。
物語の後半、老人の一人が「あんたの料理は、俺たち全員やシルカに希望をくれた」とチェンに礼を言います。そう、料理は希望にもなり得るのです。
シルカの食堂は、食でつながる第三の場所となり、年代関係なくそこに集う人々との関わりを通して、異文化が融合していきます。
監督はフィンランドの名匠ミカ・カウリスマキ。同じく映画監督アキ・カウリスマキの兄でもあり、監督作品『ヘルシンキ・ナポリ/オールナイトロング』(1987)や『旅人は夢を奏でる』(2012)でも、愛すべきチャーミングな老年キャラクターを描いています。
映画『世界で一番幸せな食堂(Mestari Cheng)』
監 督:ミカ・カウリスマキ
出 演:アンナ=マイヤ・トゥオッコ、チュー・パック・ホング
製作年:2019年
製作国:フィンランド=英=中
配 給:ギャガ https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/※ネット配信およびDVD販売中
© Marianna Films