映画『83歳のやさしいスパイ』は、探偵事務所の求人に応募した83歳の男性セルヒオが、老人ホームの内偵を行うというドキュメンタリーです。依頼人は、その老人ホームに入所している母親が虐待を受けていないかを確認したいという家族。素人探偵セルヒオは、老人ホームに入所して、そこでのターゲットの生活を毎日報告するという内偵を行います。
老人ホームの内偵という求人募集も「いまどき」なら、条件80〜90歳代の男性という求人にシニア男性が殺到するのも、超高齢社会の現代ならでは。
老人ホームに入所したセルヒオは、男性の入所者はわずか数人・女性入所者がほとんどという環境で、皆に好かれます。彼がみんなから好かれるのは、親切で紳士的なだけでなく、一人ひとりの話を真摯に聞いて向き合うから。「傾聴」というコミュニケーション技法がありますが、しっかりと向き合って相手の話を聞くセルヒオの対し方は「傾聴」そのものです。
自作の詩を朗読する詩人女性、無意識に他人の物を盗んでしまう女性、毎日玄関で「ママに会いたい」と帰りたがる女性、登場する入所者女性たちは問題を抱えている人も含めて、みんな実にチャーミング。見終わってからもほっとするのは、主人公セルヒオの優しい視点に満ちた映画だからかもしれません。
この映画がドキュメンタリーということにも驚きますが、製作者は老人ホームの許可を得て映画撮影を行い、彼がスパイをしているということだけは明かさずに3ヶ月間の撮影を実施したそうです。
ある日、老人ホームで彼のサプライズバースデーパーティを開催してくれます。そのデコレーションやテーブルコーディネートが赤と黄色を使ったあたたかなカラーリングで目を奪われました。さすが南米チリの老人ホーム! お誕生日のプレゼントが、その場でシンガーが歌う生歌というのも南米らしくてすてきです。
最後に、ある入所者が亡くなってお葬式が行われるのですが、そのお見送りや弔辞もとても素敵なものでした。ネタバレになっちゃうので、あとはぜひ映画でご覧ください。
ロードショーは終わりましたが、現在Amazon他の配信で視聴できます。
映画『83歳のやさしいスパイ(El agente topo)』
監 督:マイテ・アルベルディ
製 作:2020年
製作国:チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン合作
配 給:アンプラグド第93回 アカデミー賞(2021年)長編ドキュメンタリー賞ノミネート
公式サイト:http://www.83spy.com/
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