『日本の貴婦人』は、雑誌『CLASSY』で1992年〜1997年に連載していた、昭和の時代の名門に生まれ育った女性16人へのインタビュー集です。
登場する女性たちは、1910〜1920年代生まれの方々がほとんど。徳川慶喜の孫である徳川喜和子、財団法人冷泉家時雨亭文庫を創設した冷泉布美子、ドイツのバウハウスに学んだ山脇道子、フランク・ロイド・ライトに師事した土浦信子、日本画家の小倉遊亀、シャンソン歌手の石井好子、仏文学者・翻訳家の朝吹登水子などなど。これら女性へのインタビューは、そのまま昭和の日本の女性史としても読めます。
『日本の貴婦人』というタイトルが示すように、彼女たちは名家の出自。子ども時代の躾や暮らし、海外への留学や暮らしなど、当時の一般的な女性に比べれば恵まれた環境や教育を受けて、さまざまな世界に飛び込んで、豊かな人生を育みました。
だからこそインタビュー当時70〜80歳になっていても、いまをどう生きるのかということを真剣に考えて、なお新しいことに挑戦しようとしています。この本を読んでいると、背筋がしゃんとして、きちんと自分の人生と対峙しないといけないなという気持ちを貰えます。
この先どんな思いもよらないおもしろいことができるかと思うと、年取っちゃいられないわ(笑)。—井上喜久子
私ね、何でも楽しいの(笑)。—山縣睦子
若い人たちも私、大好きだから。年取って考え方が古くなるのがいやなんです。—井上喜久子
彼女たちに共通しているのは、明るく前向きで、いくつであろうとも好奇心旺盛で、自分の考えを持っていることでしょうか。
どのインタビューも楽しいものですが、夫と共に渡米してライトのアトリエに居住していた土浦信子さんの思い出話は、特に興味深いものでした。信子さんが、ライトに可愛がられていた様子がよくわかります。その後夫妻は日本に戻り、1935年に白金長者丸の住宅街に建築した土浦亀城邸は、86年経ったいまも東京都指定有形文化財として残されています。
昭和を生きた日本の貴婦人たちの生き方や考え方から、これからの女性の老いのロールモデルを見つけることができるかもしれません。
『日本の貴婦人』(知恵の森文庫)
著 者:稲木紫織
出版年:2004年
出版社:株式会社光文社
目 次:
- 東郷いせ —自分のお祖母様には椅子をどうぞってするでしょ その延長に外交があるの
- 徳川喜和子 —お金で誇りは買えないです 心の中から自然に溢れ出るものなんですよ
- 安田百合子 —母から子に語りつがれてきたおとぎ話を英語でね 今年またクリスマスにでも出版しようかしら
- 酒井美意子 —私は女を演技してるんです 自分のいいところを見せようと思ったらそうしなきゃ
- 伊藤ローザ —今の日本は毎日の生活が “カンフォタブル”ならそれでいいとだけ思っているみたいで
- 冷泉布美子 —日本の心ってものをしっかりつかんでほしい いいところがたくさんあるのですもの
- 山脇道子 —最近の女性は何でも他人のまねばかり もっと個性を大切にすればいいのに
- 広瀬忠子 —男女同権なんて盛んに言われますけど私女性の勉強も足りないと思う
- 井上喜久子 —この先どんな面白いことができるかと思うと年取っちゃいられないわ
- 鳥井春子 —昨日のことはもう過去のこと ただ前を見て生きているだけです
- 小倉遊亀 —とらわれないということができれば本当に生きることができます
- 山縣睦子 —仕事か結婚か…両方とったらいかがですか?
- 土浦信子 —私いつも今を生きてるの 昔がよかったとは思わないわ
- 小酒井美智子—楽しく暮らすためにはちょっとした遊び心が大切だと思う
- 石井好子 —大臣の娘ともあろうものがレビューで歌うなんてケシカランと言われたんです
- 朝吹登水子 —軽井沢でだけ毎年お会いする“夏のお友達”っていうのがずいぶんありました