『おらおらでひとりいぐも』は、63歳で作家デビューした若竹千佐子さんのデビュー作です。本作は、第158回芥川賞・第54回文藝賞など数々の賞を受賞。史上最年長での文藝賞受賞、63歳の新人作家ということでメディアでも大きく取り上げられました。
人生100年時代には、60代以降にデビューする作家さんも増えていくのではないでしょうか?
作品の主人公は、74歳一人暮らしの桃子さん。59歳のときに夫が突然亡くなり、成長した子どもたちも巣立ったいま、人生を振り返り、自らの老いと向き合うように、彼女は自分の内なる声に耳を傾けます。
あいやぁ、おらの頭このごろ、なんぼがおかしくなってきたんでねべが
どうっすぺぇ、この先ひとりで何如にすべがぁ(p.3)
東北弁で桃子さんから湧き上がる内なる声の出だしに、最初から心掴まれます。
故郷を捨てて上京し、夫と出会い、夫に先立たれ、子どもたちと疎遠になりつつも、74年間の桃子さんの人生を振り返り、心の中の声に自問自答しながら、彼女は自分自身と向き合います。それは、まるで頭の中の井戸端会議のように。
この作品を貫いているのは、桃子さんがひとり立つ姿、その強さ。
誰かと組みすることなく、孤独を味方につけて、自分と向き合えればこそ、このあとの人生を自分らしく生きていける。誰もがいつか一人になる。そのときにどれだけ強い心を持って人生と向き合っていけるのか。桃子さんの声は、これからの人生に大切なことを教えてくれています。
まだ戦える。おらはこれがらの人だ。こみあげる笑いはこみあげる意欲だ。まだ、終わっていない。桃子さんはそう思ってまた笑った。(P.142)
昨年公開された映画版の『おらおらでひとりいぐも』は、桃子さんに田中裕子さんが扮し、小説では活字だった東北弁が、音楽のように立ち上がってきます。いいなあ、桃子さんの東北弁。
そして桃子さんの“孤独”を、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎の3人が演じるという演出がユニークでした。こんな賑やかで頼もしい“孤独”なら、悪くない。映画もオススメです。
小説『おらおらでひとりいぐも』
著 者:若竹千佐子
出版社:河出書房新社 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026374/
ISBN:978-4-309-02637-4
発売年:2017年映画『おらおらでひとりいぐも』
監督:沖田修一
出演:田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎
配給:アスミックエース
映画公式サイト:https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/
公開:2020年