NYにある、エレベーターのない古いアパートメントの最上階の部屋に45年間住む、画家のアレックスと元教師のルース夫婦、そして12歳の犬ドロシー。
アレックスも老犬ドロシーも、そろそろ5階までの階段の上がり下りが負担になりつつある年齢。老後を心配したルースの提案を受けて、エレベーター付きのアパートメントを購入して引っ越すために、夫婦は家の売却を決心します。
この映画は、その2人が家の内覧会を開催する週末の出来事を描いたもの。
古くてエレベーターがないとはいえ、最上階で眺めが良く、アレックスの作品が部屋中に飾られ、読書好きのルースの本がどっさりある部屋は、2人の人生の思い出を積み重ねた居心地のいい空間です。屋上にはトマトを育てる菜園もあり、ルースのリタイアメントを祝うパーティは、この屋上で行われました。
特に素敵なのは、「日当たりがよくて、お食事をするときはサングラスをかけなきゃならないくらい」と不動産屋がセールストークに使うほど、光がふんだんに差し込むコージーなキッチン。コの字型のキッチンには、一面に窓やテラスに出る扉もあり、時折折り込まれる過去の出来事も含め、暮らしの中心になっています。
エレベーターがないこと以外は、2人ともお気に入りの45年間も住み慣れたアパートメント。老後を見据えて住み替えを決断しなければいけない状況は、全世界共通です。
それでも、100万ドル近い値付けで売れそうだということで、他のエレベーター付きアパートメントの内覧会に出かける2人。つまり2人は売主であると同時に買主でもあるのです。
内覧会の様子、買主がそれぞれの値付けをオファーして入札するシステム、売主の心に響くような「泣き落としの手紙」を付けるなど、ニューヨークの不動産売買の様子や売り出し中のアパートメントを垣間見ることができるのも、この映画の興味深い点です。
「一番の願いは、若い頃のように階段を上がること。元気に一生…」と呟くアレックスの言葉は、これからの終の棲家を考える私たちの心に深く染み込みます。
爆弾テロ事件、人種差別、不妊、老齢期の仕事、人間と愛犬の健康問題、人生のさまざまな出来事がタペストリーのように折り込まれながら、軽快なタッチで描かれたこの映画は、Good Over 50’sの皆さんにオススメ。
モーガン・フリーマンとダイアン・キートン扮する夫婦もとってもチャーミング。『セックス・アンド・ザ・シティ』のシンシア・ニクソンが、遣り手の不動産エージェントとして登場しているのも、「おっ」と思わせます。
原作は、ジル・シメントの小説『眺めのいい部屋売ります(Heroic Measures)』。映画とは設定(アパートメントのある場所は、映画ではブルックリン、小説ではイーストヴィレッジにある)や結末が異なりますが、小説では老犬ドロシーの視点が加味されているのがおもしろいところ。ペットの高齢化やペット可のアパートメント探しも、これからの時代の課題です。軽快なタッチながらも、さまざまな点で考えさせられる映画と小説です。
映画『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります(5 Flights Up)』
監督:リチャード・ロンクレイン
出演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン
製作年:2014年
販売元:ポニーキャニオン
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原作『眺めのいい部屋売ります(Heroic Measures)』
著者:ジル・シメント
翻訳:高見 浩
発表:2009年
出版社:小学館
ISBN:9784094062151