愛知県・高蔵寺ニュータウンの一隅にある、雑木林に囲まれた一軒の平屋。70種の野菜と50種の果実が採れるキッチンガーデン、編み物から機織りまで、何でも手仕事で拵えていく、建築家の津端修一さん・90歳と、妻の英子さん87歳の夫婦2人の暮らしぶりは、『あしたも、こはるびより。』(2011年)などの2人の共著に綴られ、2017年には『人生フルーツ』というドキュメンタリー映画となりました。映画は、いまも全国どこかの映画館やイベントで上映されているほど根強い人気です。
『人生フルーツ』劇場予告編
本書は、『あしたも、こはるびより。』から4年後の2人の暮らし、特に英子さんの食のレシピや編み物などの手仕事にフォーカスしたものとなっています。キッチンガーデンで収穫した野菜を使った英子さんのレシピを本にまとめたのは、お孫さんのはなこさんに味覚の記憶を伝えたいという気持ちからでした。それから、しゅういちさんが入院してから始まった「塩抜き生活」のことも描かれています。
換気扇や給湯器のない台所で、「塩抜き生活」の2人の食事から大勢のお客様のおもてなし料理、そして東京のお孫さんに送る「はなこさんへの宅配便」まで作る英子さん。よく作るお料理やおやつのレシピ、愛用の調味料まで紹介されている、英子さんのお料理本、そして味覚の遍歴。
また、シニア期の2人暮らしのお手本として読むのも楽しそうです。畑1時間、お昼寝2時間、家事でも何でも今日中に終わらせようとしないで、疲れないように気楽に少しずつやっていくというライフスタイル。時間に追われるのではなくて、時間と共にゆっくりと生きていく暮らしが、シニア期にはちょうどよい塩梅なのでしょう。お互いを「さん」付けで呼び合う2人の遣り取りにも、ほっこりとさせられます。
ただ少し悲しいのは、本書の編集中に、夫のしゅういちさんがお昼寝をしたまま、虹の橋の向こうに旅立たれたこと。この本が、2人の暮らしの記録の最後になりました。
ところで表紙の数字入りの赤と黄色の箱は何だろう?と不思議だったのですが、その謎は本書を読んでお確かめください。
書名:ひでこさんのたからもの。 「あしたも、こはるびより。」のそれから。
著者:つばた英子、つばた しゅういち
発行:主婦と生活社
発売:2015年11月20日
ISBN:9784391146875
定価:1,400円(税別)