現代のサウナ石の問題
フィンランドのサウナは、焼け石に水をかけて蒸気を立たせますが、昔はその石を熱するのに薪を燃やしていました。それがニクロム線を封入したパイプヒーターの周りに石を入れ、電気で熱する仕掛けが開発され普及しました。
石を積んで作った窯の中で薪を燃やして石を熱していた時も、手軽にサウナに入れるよう工夫されて鉄の箱の中で火を燃やしてその上に積んだ石を熱するようになった時も、石にかかる温度は大して高くなく、石に含まれる成分が揮発することなど、ほとんどありませんでした。
人々がせっかちになり、短時間でサウナに入れるようにするために、ヒーターのワット数がどんどん高くなっていきました。するとすごく高温に焼かれた石から、さまざまな成分が揮発するようになりました。
これに気付いたのが、Teppo HULMEという陶芸家です。彼は、電気サウナで割れたサウナ石が軽くなっていることを知り、大学の研究室に「石を高温に熱するとどのような変化が起きるのか」という調査を依頼しました。
割れないサウナ石を開発したTeppo HULME
それまで、サウナ石がなぜ割れるか、不思議なことに誰も真剣には考えていなかったのです。実験調査すると、高温に熱された石から、重金属、硫黄など、いろいろな危険なものが出てくることがわかりました。
それらの成分が揮発したために、だんだんと結合が粗になり、そのうち、熱くなったところに水をかけられたショックで石が割れるのです。
そこで陶芸家の彼は、高温に熱してから急冷しても割れない石を開発しました。
その石は、1300度以上の高温で焼いてつくる陶器なので、製造段階で揮発するものはすべて出てしまっています。だからサウナ入浴時に熱しても、何も揮発して出てこないのです。また、石が割れなくなって、入れ替える必要が少なくなったことで経済的にもなりました。
幸いなことに昔からの習慣で、これまでの天然のサウナ石でも、入浴する前にはサウナ室の空気を入れ替えていたので、揮発した有毒成分の混じった空気は外に出されていました。
しかし、少量づつ継続して揮発することは確かなので、現在フィンランドの公共のサウナでは陶器の石が使われています。陶器のサウナ石は、蓄熱性も高いということで、昔からフィンランドに伝わる古式スモークサウナでも使われています。