先日のケアリングデザインセミナーで、ホスピタルアートに関心の高い方々が多かったので、ホスピタルアート関連の本をご紹介します。
著者の山本容子さんは、国内外で活躍する銅版画家。彼女は、入院していた父が亡くなったあと、長い闘病生活を病院で過ごしていた父がずっと無味乾燥なパンチボードの天井を見ていたのだということに気付いて愕然とします。そこから「Art in Hospital」というテーマを考え始めます。
お見舞いの花や病室のテレビがあったとしても、入院患者さんやその家族にとっては、病室の天井や病室、いつも過ごしている病院内の環境こそが重要なもの。日本では、病院の設備や機能が向上する一方で、患者さんが長い時間を過ごすケアリングの場としての居心地のよさやデザインについては置き去りにされていることが多いものです。
本書では、山本容子さんが本場スウェーデンの「Art in Hospital」を取材した豊富な事例、彼女が作品を描いた中部ろうさい病院と和歌山県立医科大学附属病院での気づきと実践について、項目毎にわかりやすく紹介されています。
なかでも共感したのは「アートはスタッフのため、でもある」(12)という項目です。
私たちが視察したノルウェー「ウルル・ヘルスビッグ」でも、アートは“住民だけでなく、訪問者、そこで働く人々、すべての人のためにあるものだ”という明確なコンセプトのもと、ホスピタルアートを積極的に取り入れていました。
日本でも、こうしたアーティストからの発信をきっかけに、もっともっとホスピタルアートを取り入れていく病院や施設が増えていくとよいなと思います。
これまでのホスピタルアートは建築家や評論家の立場からの紹介が主でしたが、本書ではアーティスト側からの視点や気づきが得られるという点でも非常に興味深い本です。
書 名:Art in Hospital スウェーデンを旅して
著 者:山本 容子
出版社:講談社
定 価 : 本体1,800円(税別)
ISBN:978-4-06-218574-5
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000188327銅版画家 山本容子オフィシャルサイト
※オフィシャルサイトでも山本容子さんのホスピタルアート作品が閲覧できます。