気に入らん、と言うから、何が気にいらんのだと聞くと、出来すぎだと言う。
「国立出のエリート官僚と言うから、冷たい秀才を想像していたら、これが実にいいい奴。かなわんのよ。俺より全部上。俺が上なのは歳だけだ」と友人は笑い、ビールをあおった。
8階の部屋を初夏の風が渡る。言葉とは裏腹に、多分彼は「最愛の娘を取られてもこの男なら仕方ない」と報告しに来たのだ。そして彼なりのやり方で、花嫁の父の「一番つらい関所」を通り抜けようとしているのだろう。
でもな、と彼は言う。「お前との酒の肴になるような欠点を、ひとつくらい用意していてもいいじゃないか」それもやさしさだろ、と言い残し、深夜、自宅へと帰って行った。
こっちも本音だと思って、私は笑った。