テレビにはふらふらになった選手が映っていた。目はうつろで既に走れる状態ではない。リタイアかな、と智子はつぶやいた。
智子が暖をとる炬燵には、夫と5歳の息子が並んで寝ている。この正月は、双方の両親が共に旅行で、智子一家は、結婚以来初めて自宅で新年を迎えることになった。
選手が倒れ、再び立ち上がった。目を瞠る智子に「リレーだもん」と眠っていると思った夫が答えた。そうだ。駅伝はリレーだ。タスキを待つ人がいるのだ。彼に立ち上がる力を与えたのはその人だ。そう言えば遅い結婚で近々50歳になる夫が「息子が社会に出るまで頑張らなきゃ」と嬉しそうに笑っていたのを思い出す。タスキを渡したい人がいる人生はいいものだと、智子はふと思う。