静寂さただよう美しい景色からはじまるこの物語は、ノーマン・フォスターがどのような視点で建築と向き合い、また、どのような人生を経て、現在のイギリスを代表する建築家の地位まで上り詰めたのかを、彼自身、また、彼の身近な人々へのインタビューで構成されています。
美しいビル群と自然の中にたたずむ建築物の対比、フォスターの歩いてきた人生、力強さと繊細さのハーモニーに時間の経つのも忘れ、フォスターの世界にどっぷりと浸かりました。また、空撮映像が非常に多いのも見所です。
今年のお正月から渋谷の映画館で上映され、3週間の限定上映でしたが好評につき上映延長されました。DVDが発売されましたので、是非そちらでお楽しみください。
ロンドンをガラスの都市に変えた男
イギリスに”モダニズムのモーツァルト”と評される建築家がいることを知っているだろうか。ロンドンを訪れたことがある人なら、ノーマン・フォスター卿の設計した圧倒的に優雅な建築物をいくつも目にしているはずだ。大英博物館グレート・コート、ミレニアム・ブリッジ、スイス・リ本社(通称ガーキン)、ロンドン市庁舎など。その活躍はイギリス国内に留まらず、世界中で多くのプロジェクトを手がけ、国際的な評価を受けている。
現在78歳のフォスター卿はノートと鉛筆を携え地球を飛びまわる。ロンドンを中心に世界20か国以上の拠点を設け、70年代から建築界の最前線を走ってきた。イギリスのマンチェスターで生まれ、モダニズム全盛のアメリカで建築を学んだ後、設計事務所を設立。鉄とガラスを多用し構造体を外部に露出させたハイテク建築で独自のスタイルを確立。その建築は革新性と洗練を兼ね備え、リチャード・ロジャース、レンゾ・ピアノと並ぶハイテク建築の御三家の一人として世界に名を広め、エリザベス女王より貴族爵位を与えられる。
バックミンスター・フラーとの会話、リチャード・ロジャースやリチャード・ロング、蔡國強、U2ボノへのインタビュー、そして数多くの建築作品を通しフォスター卿のデザイン哲学が垣間見られる。「私は建築家として働きながら、空を飛ぶ感覚を味わっている。見事な自然を空から見つめ、長距離フライトの気分をエンジンなしで楽しむ。上昇気流に乗って宙に浮く感覚を建築で味わうんだ」パイロットになることを夢み、そして実際に操縦免許を取得したフォスター卿はそう語る。空を飛ぶように美しいスケッチを描くフォスター卿にとって、描くことは考えることだ。そしてその先にまだ見ぬ未来が待っている。